古文で読む『源氏物語』感想32. 須磨 Ⅰ 〜 サコイパス源氏に罪はないのか?

本日のあらすじ

右大臣に朧月夜との密会を発見された源氏。すでに官職も奪われた状態ゆえ、さらに罰を受けた場合流刑も考えられる。言われる前に自ら都を離れ、須磨に渡る決意をし、方々へ別れの挨拶をする。

1.あらすじが短い件

普段だいたい(岩波の本で)10ページ弱読んで感想を書いているのですが、今回17ページと多めに読んだ割に「あらすじ」がエラい短いのはどういうこっちゃ……?

……いえ、冒頭で源氏が都を離れる決意をしたもんだから、じゃあ今日は都を離れるまで付き合おうかなと読んでいたらなかなか離れない。いいからさっさと行けよと思ってしまいました(笑)

方々に別れの挨拶をしていて長引いたんですね。左大臣夫妻(と夕霧)、左大臣家で源氏と関係を持った女房・中納言の君、三位中将、師の宮(源氏の弟)、紫の上、自邸の女房兼愛人・中務の君と中将の君、(元)麗景殿の女御、花散里、朧月夜(こっそり手紙で)、藤壺、王命婦づてに東宮……

2.罪もなく…ってそうか?

源氏がなぜ自ら須磨に渡ることにしたかはわかりました。ここで初めて言及されましたが、弘徽殿大后と右大臣の専制下ですでに官位官職を奪われていたんですね。その上での朧月夜との密会発覚、弘徽殿大后激おことなれば、さらなる罰というか報復は島流しの可能性大。都に居続けられたところでどんな目に遭うかわからないし、大事になる前に自分で都を離れようというわけです。亡命に近いか。

うん。それはわかったんですが気になるのは…

挨拶された方々の皆さん、原因が朧月夜との密会だって知ってんのかな。

表向きは女官でも実質は帝の妃で、しかも政敵の右大臣一族の娘と、しかもしかも当の右大臣の屋敷で密会して見つかっちゃったからって…こんな面白い話噂にならないわけないし、知らずにいるのも難しい気がしますが。

ただ源氏が左大臣や紫の上に対して、どういうつもりでか「罪無き身ですが、巡り合わせが悪くてこんなんなっちゃいましてん」と言っているのも首を傾げざるを得ない…少なくともこの二人には隠してるんじゃないかなあ。隠しおおせているのかはともかく。

紫の上には「別の女性との密会の現場押さられましてね」なんて言えるはずもなく、言っていれば別れを悲しんで泣く紫の上が間抜けにすら見えるし…事情がこうでなければ、鏡に顔を映した源氏が

身はかくて さすらへぬとも 君があたり 去らぬ鏡の 影は離れじ

「鏡の影があなたのおそばに居続けるでしょう」というこの歌もジンと来ますんですけどね。

左大臣に対しても、舅であった人に「別の女性との以下略」なんてねえ。しかも相手は天敵、右大臣の娘です。

それとも源氏は本当に、自分に罪はないと思ってるのでしょうか…それもありうる。ほかの何事も顧みず、恋に生きてきた源氏が源氏らしく恋に生きただけだから。なんかもう恋のサイコパス。いやサコイ(恋)パス。

ちょっと弘徽殿大后の身になって考えてみると、妹を入内させ、ゆくゆくは中宮にして一族の権勢をさらに固めようとの計画を(家族を駒にしたそういう計画自体は現代人の私から見ればまるで褒められたもんじゃありませんが)、サコイパス源氏の気まぐれで衝動的な狼藉にぶち壊されたわけですから……

考えてみると「出世」の道を絶たれた本人である朧月夜こそ源氏を恨んで然るべきかもしれない。それでも源氏がこっそり送った別れの手紙に、涙で返信する優しい人なのでした…

次回「須磨」の続きです。ようやく須磨へ向けて出発!