古文で読む『源氏物語』感想29. 賢木 Ⅳ 〜 出家ラッシュはまだ先のこと

本日のあらすじ

寺(雲林院)から戻った源氏。参内して朱雀帝と語り合い、退出した所を、朧月夜との源氏の仲を知っているとみられる弘徽殿大后の甥から当て擦りを受ける。後ろめたさに朧月夜と連絡を取らずにいると、朧月夜のほうから会いたいと手紙が届いた。さすがに返事を送る源氏。

桐壺院の一周忌に藤壺中宮主催の法要で、藤壺が出家。源氏はもちろん兄・兵部卿の宮も事前に知らされておらず、みな驚き嘆く。春宮の母であり後ろ盾でもあった中宮の出家で春宮の立場は弱くなると見られ、源氏は春宮の後見人としてちょいちょい考えていた出家の道を諦め、藤壺との関係も諦めざるを得ないことに。

1.藤壺出家…ほぼ源氏が原因では

なんとなく『源氏物語』は登場人物たちが出家しまくる話のように記憶していましたが、それは後のほうのことですね。登場時から出家していた人はともかく、物語の進行中に出家したのはこの藤壺が最初でした。

当時尼になる女性は髪を肩の辺りで切りそろえたそう(「若紫」の巻で紫の上の祖母・尼君もそんな髪型でした。源氏はその姿を垣間見て「ああいう髪型もなかなかかっこいいもんだなあ」なんて見とれています)。身長よりも長い髪を引きずって生活していた所に…さぞサッパリするだろうなあ…と現代人としては思っちゃいますが。

脱線しますが私も精神的にサッパリしたい時によく、自分で髪を切ります。10代の頃美容院へ行ったら天然パーマは扱えないと断られたことがあって、トラウマから今も美容院行けませぬ。おかげで身につけたセルフカットスキルですが……ジャキジャキ髪を切っていくのは本当に気持ちいですよ……!煩悩というか、肥大した自意識を切り落とす気分です。

話を戻して、藤壺が出家した理由はというと、源氏との関係がバレて物笑いの種になること、春宮の立場が危うくなることを恐れてでした。おそらく出家することで弘徽殿大后のアウトオブ眼中に逃げようということでもあるし、相変わらずまとわりついてくる源氏を振り払うためでもあるでしょう。っていうかほぼ源氏のせい?

2.朧月夜との関係のほうが危ない

むしろ現実的に危ないのは朧月夜との関係。っていうか実はすでに、朱雀帝にバレてます。

朧月夜本人の様子や周囲の噂から朱雀帝も源氏と彼女との関係を知っているのですが、関係の始まりが朧月夜の入内前だったことから、咎め立てする筋合いではないと考え容認しています。弘徽殿大后の息子にしては(?)おっとりとした人格者。ただ気が弱いため、弘徽殿大后からせっつかれた日には源氏を処罰しないわけにはいかなくなるでしょう。弘徽殿大后にバレたら大変……

……っていうかこれも、すでにいつバレてもおかしくない状況。

前々回、朧月夜の元からこっそり出ていく源氏を、朱雀帝の女御の兄が目撃したことを書きましたが、この麗景殿の女御というのは朧月夜とライバル関係と思いきや(そうでもありましょうが)弘徽殿大后の姪で、つまり朧月夜にとっても姪でした。朱雀帝とはいとこ同士ですね。源氏を目撃した女御の兄は弘徽殿大后の甥です。こりゃもう耳に入っちゃってるんじゃね?

3.白虹日を貫けり、太子をぢたり

目撃者で弘徽殿大后の甥である頭弁(とうのべん)が、今回朱雀帝の元を退出した源氏とすれ違って「史記」の一節を聴けとばかりに唱えます。「白虹日を貫けり、太子畏ぢたり」。前回に続き紫式部お得意の「史記」出ました。

始皇帝暗殺を図った燕(えん)の太子が、白い虹が太陽を貫く珍しい自然現象を見て怖気付いたという話で、頭弁は源氏を太子になぞらえ、朧月夜と通じて朱雀帝を裏切っているだろう、謀反を企んでいるのだろう、まあ今のアンタが何しようと無駄なことだけどwと嫌味を言ったわけです。

謀反というか…源氏にできるのはせいぜい不倫までですが、それは別に桐壺帝の時代にもやってましたよぉ!と抗議しても仕方ない(するわけない)。「ぐうの音も出んわな」と作者も評しています。(「まばゆしと聞き給へど、咎むべき事かは」)

次回で「賢木」おしまいの予定。朧月夜は会いたがっているけど、今は会わないほうがお互いのためなんだがなあ…