古文で読む『源氏物語』感想28. 賢木 Ⅲ 〜 ギャーッ!!(バタン)

本日のあらすじ

弘徽殿大后が実験を握る内裏が居心地悪くなって里がちな藤壺のもとに、どういうトリックを使ったのか源氏が忍び込んでくる。結局二晩共に過ごすも、藤壺はストレスからすっかり体調不良に。このまま源氏の執心が治らなければ最悪2人の仲が知れ渡り、息子・春宮もその座を追われるかもしれない、と悩む藤壺は出家を考える。源氏は藤壺がとことん冷たいことにフテつつ落ち込み、伯父(亡き桐壺更衣の兄)が律師(僧侶)をしている寺を訪れ、しばし滞在する。

1.藤壺…マジで源氏のこと嫌ってない?

六条御息所と源氏のなれそめと同じく、藤壺と源氏の最初の逢瀬は書かれていないのですが(いずれその部分が発見されたら面白い)、どうせ源氏が強引に迫ったのだろうことは想像ついていて…

というのも藤壺はひたすら源氏との関係の発覚を恐れているし、「二度とそんなことがないよう」源氏に対しては特に距離を置くよう努めているわけで、そんな藤壺が進んで源氏と関係を結ぶはずありません。

とはいえそれも、藤壺が桐壺院の妃だったからであって、現在は息子・春宮の将来を考えるからであって、そんな理性から源氏への恋心を必死で抑えている意志の強い女性…だとなんとなく思っていたのですが。

…いやマジで源氏のこと好きじゃないのでは。とここに来て思いました。

今回、源氏がどういう手を使ったのか作者にもわからない(って、書かないだけor設定してないだけだろうけど)のですが、とにかく藤壺の元に忍び込み、藤壺はショックで倒れてしまいます。事情を知っている女房たちは兵部卿の宮等の見舞い客が来ている間源氏を納戸に匿いますが、少し回復して目を覚ました藤壺は源氏がまだ近くに隠れていると知りません。

起き上がれるようになっても、女房が運んできた果物も食べられず思い悩んでいるところに、後ろから衣擦れの音がして振り向くと源氏がいて…

2.ゴキブリ発見?

とっくにいなくなったと思っていた源氏をすぐ後ろに見た藤壺、

あさましうむくつけうおぼされて、やがてひれ臥し給へり(思いもかけず恐ろしくお想いになり、そのままお倒れになった)

ギャーッ!!(バタン)

って幽霊かゴキブリでも見つけたみたいに…「事情が事情だから突き放さずを得ないけれど本当は好き」とかじゃもはやないんじゃないかコレ。

いやもしかすると最初は好きだったのかもしれない。けれどここまで自分を不利な状況に追い込みながら迫ってくる源氏に心底厭気が差すのも無理はない…。不利になるのは源氏も同じですが、源氏は「恋に生きる人」だからその辺ブッ壊れてるんですね。

3.紫式部と「史記」

藤壺の考える「最悪の事態」。源氏との関係がバレて、春宮の父親が知れたら、春宮がその座を追われることも恐ろしいし、自分が「物笑いの種」になることが何よりも恐ろしいようです。六条御息所もそうだったけれど、笑われることを恐れるのが「恥を知る人」なんですね。

そんな物思いの中で藤壺が「戚夫人(せきふじん)のような目には遭わないまでも」と弘徽殿大后の天下を憂えるのですが…

「戚夫人」については二十年前にこれを読んだ時、注釈で知って数週間うなされた覚えがあるので詳しくは語りませんけれど…ともかく司馬遷の「史記」に登場する、つまり歴史上の人物です。漢の高祖の側室で、高祖の死後、高祖の正室・呂后に息子ともども虐殺された、とだけ言っておきます。

今後語る機会もないだろうからここで脱線しておきますが、呂后にしても西太后にしてもあるいは世界中の他の地域の女王や女帝にしても、この手の残酷さを強調する伝説が残りがちなのはミソジニーのなせる業では、と最近疑ってます。「女のくせに支配者となる者はどこかおかしい」というメッセージ性を感じる。だから私がうなされた伝説も、あるいは悪意のある作り話ではないか…と。希望的に。

話を戻して、そうか藤壺は「史記」を読んでいたんだ…と思うとなんだか面白い。そういえば紫式部は幼少期から秀才で、「史記」を習いながら難儀している兄の横でスラスラ漢文を読みくだしたと言い伝えられています。それを見た父親が「この子が男ならよかったのにい」と嘆いたそうですが。女が漢字を使うのは…要は生意気だってことでしょうが、モテないぞと「雨夜の品定め」で言ってましたが、紫式部自身は相当に漢文の素養があったんですね。

次回も「賢木」続きます。出家も考え、どうする藤壺…