古文で読む『源氏物語』感想25. 葵 Ⅴ 〜 結婚を「めでたしめでたし」にしなかった紫式部

本日のあらすじ

源氏は左大臣邸から久しぶりに自邸二条院へ。美しく成長し、藤壺に瓜二つとなった紫の上と、当人の心の準備も整わぬうちに気の毒にと思いながらも関係を持ち、正式に結婚する。兄のように思っていた源氏がこんなつもりで自分の面倒を見ていたのか、そんな人に自分は懐いていたのかと、紫の上のショックは大きく、源氏を疎んじる。

1.これ辛い。家庭での性暴力と言えるのでは…

今までで一番辛いところかも。紫の上の年齢が正確に幾つなのかはわかりませんが、この“結婚”後、源氏は紫の上の父、兵部卿の宮に娘を預かっていることを知らせ、裳着(女性の成人式)をさせようと考えるので、いわば「未成年」。って言うか幾つであっても相手の意に反するセックスはダメだろ。

しかしショックを受け、源氏を見損なって苦しんでいるのは紫の上だけで、乳母の少納言なんかこれで一安心と喜んじゃってるし、源氏は「申し訳ありませんでした」どころか「僕の気持ちをわかってくれないなんてひどい方!なーんちゃって」と冗談まじりにプンプンしていて、絶望的に孤独な紫の上です。

そして結局は、全て受忍するしかない紫の上の運命。経済的な保護者としても唯一頼りにしていた人が相手なのだから、どこにも逃げられない。いや逃げられて然るべきですけどね!

折しも昨日から朝日新聞で「子どもへの性暴力」が連載されていて、家庭で保護者から受ける性暴力が被害者に与えるダメージの甚大さ、深刻さが書かれていましたが…未成年の家庭での被害という、逃げ場のなさも大いに影響しています。まず起きてはならないことだけど、起きたら、あるいは起きそうになったならすぐさま子どもが逃げられるように法律や制度が整えられなきゃならないと思います。

2.心地よい欺瞞よりも女性の「リアル」

そんなことも連想されて、読んでいて辛かった…んですが、救いは紫の上の辛い心理状態を、作者がしっかり読者に伝えていること。

これすらもなかったら、紫の上は本当の本当に孤独です。

いやこれすらもない可能性のほうが全然高いんじゃないでしょうか、ってのは10世紀の女性に対する偏見?千年以上前の物語なんだから、「自らの意思とは無関係に、知らない男に蘇生されてそいつと結婚させられた」とも読める『白雪姫』を「めでたしめでたし」で済ませる的なメンタリティ(って言うか女性に対するメンタルそのものの…無さ?)で、はにかみながらも源氏の花嫁になった幸せに頬を染める紫の上…みたいな(自分で書いててキモい)済ませ方されてても全く違和感ないくらいなのに。

いや逆にそう言う書き方をされていたら、こんなに辛くもならないでしょう。せいぜい「よく考えたら紫の上の意思が……うーん、考えすぎかな⭐︎」みたいな。

でもあえて、紫式部先生は書いた。これが平安貴族の女性たちの、少女たちの“結婚”の少なからぬ「リアル」だったからじゃないかと思います。相手がどんだけ現実離れした美男子の金持ちの皇子様だろうが、自分の意思に反したセックスは不幸なのだと。

それさえなければハッピーな展開にも読めたものを、興ざましな…なんてクレームつける読者がいたかどうだかわかりませんが、実は私もちょっと思っちゃいもしましたが…そこは世界最古の近代文学と言われる『源氏物語』ですから、心地よい欺瞞よりも人間の本心を描いたのだと思います。

ひょっとすると作者紫式部自身の体験が下敷きにあるのかもしれないとも…

さて、「葵」は終わって次回から「賢木(さかき)」です。