古文で読む『源氏物語』感想21. 葵 Ⅰ 〜駐車場争い

本日のあらすじ

桐壺帝が退位し朱雀帝が即位。朱雀邸の母・弘徽殿女御が皇太后となる。源氏との間が疎遠になっていた六条御息所(ろくじょうのみやすんどころ)は、娘の斎宮と共に伊勢に移ることに。源氏の正妻・葵上は妊娠。葵祭のための御禊(ごけい)の日、斎院の行列を見物しようと牛車で出た葵上一行は六条御息所の車を見つけ、酒に酔った随身の若者たちが御息所の車をどかす騒ぎに。屈辱に耐えかねて涙を落とす御息所。源氏は後日その件を知って御息所を訪ねるが、ろくに面会してもらえない。後日の祭りには紫の上を連れて出る源氏。源氏の同乗者の女性が誰かと噂し合う人々。源典侍が源氏に車の場所を譲り、恋の恨みの歌合戦になる。

1.いわゆる「車争い」…ってゆうか駐車場争い

有名な場面ですね。お祭り騒ぎで酒も入りハイになった葵上の若い従者たちが、通りを見物するための(牛車の)駐車場所を探し、身分の劣る人の車をどかせようとした際六条御息所の駐車スペースに目をつけると、相手側から「この車をどなたの車と心得る!」式に制止されます。

それで相手が六条御息所と察した(どうやって?まあいいけど)従者たちは「源氏の君の威光を借りて怖いもの無しですかあ〜〜?(ってかお宅は愛人、こっちは正妻様ですけどwww)」と侮辱し、御息所の車の榻(しじ、乗り降りの際踏み台になるところ)までへし折る騒ぎに。

2.妻と愛人の対立場面?いや…

「夕顔」の巻からちょこちょこ「六条わたり(あたり)」=六条に住んでいる人としてだけ紹介されてきた源氏のワンノブ愛人である女性が、この巻で「六条御息所」として正式に(?)登場しました。

「御息所」とは帝または春宮の子を産んだ女性。六条御息所は桐壺帝(源氏の父)の弟であった春宮の妃でしたが、その春宮は亡くなり、娘は斎宮として伊勢神宮に仕える身。かなり歳下らしい源氏との関係が疎遠になり、世間の物笑いになるのもイヤなので自分も娘と伊勢に写ろうかと悩み中です。

そんな中、恨めしいけど恋しい源氏の晴れの姿を見たくてこっそり、身分低く見える車にやつして祭り見物に出たところ、源氏の正妻・葵上の車によって乱暴にどかされ、後ろに追いやられたまま帰りたくても身動きの取れない状態に。風流好きで繊細な御息所はこの時点でもう限界。…さらに、車の中にいるとはいえ酔って自分を侮辱してくる男たちに囲まれる恐怖は普通に考えてトラウマものです。屈辱もさることながら、恐怖はいかばかりか…この点、今読んで初めて気がつきました。

妻と愛人の対立の場面として捉えていたけれど、実際起こっているのは酔った男たちが女性の車を取り囲んで乱暴狼藉を働いているということなんですよね。

さて通りかかった源氏は葵上の車に合図を送り、随身たちも敬意を表するのですが、後ろの御息所の車は見えないため結果素通りに。知らないから仕方ないとはいえ御息所の傷口に塩を塗るような光景でした。

この辺りの描写がもっぱら御息所の視点で描かれます。

3.葵上はどう感じていたのだろう

この「葵」の巻で、時は前巻「花宴」から2年経っています(注釈によると)。その2年の間に葵上が妊娠していたわけですが…まあ空白の2年くらいがないと読者も納得いきませんよね。あんなに冷たい仲(主に葵上がプライドから源氏を遠ざけていた)だったのに…逆にそんな夫婦が歩み寄るまでを描くのも難しい。紫式部、うまく時を使ったな…なんて。

ちなみに大和和紀の漫画版源氏物語『あさきゆめみし』では、葵上との関係もやはり源氏による強引な…はっきり言ってレイプでした。うん…ここまで読んでて全く違和感ないです、残念ながら。

車争いの件を聞いた源氏は、血気はやった若い従者たちが悪いと考えつつも、葵上の人間性をちょっと疑い…というか「そういう人だよね」と情けなく思います。元凶が何をぬかすか。

しかし実際、車争いの場面に葵上の心理描写はありません。彼女が何を思っていたのか、どう感じていたのかここでは分からないわけです。酔っぱらった若い従者たちを止めようと思えば止められたのか…もちょっと疑わしい。年配の従者たちが若者たちを制止しようとしてもできませんでした。さすがに主人の命令は聞いたでしょうか。暴れたくて聞こえないフリをしたかもしれない。そもそも夫の浮気相手を助ける気になれなかったとしても、ちょっと責められないところがあります。

その後お見舞いに来た源氏との直の対面を(娘・斎宮の滞在ゆえ屋敷を清らかに保つため、男との逢瀬を避けたいという口実のもと)拒む御息所。源氏は「そんな角立てなくても」と不満を抱きます。どういう立場だテメエは。

屈辱と恐怖に傷ついた御息所と、産月の近付く葵上…

次回も「葵」続きます。