古文で読む『源氏物語』感想20. 花宴 〜 若い朧月夜はNOと言えない

本日のあらすじ

宮中で催された桜の宴で、漢詩作りや舞で大活躍した源氏。夜になり、藤壺(局)の周辺をうろつくが隙がなく、隣の弘徽殿を見ると戸口が一つ開いていた。侵入すると和歌を口ずさんでこちらに歩いてくる女性が。源氏は彼女を捕まえて一夜を過ごし、名を明かさない彼女と別れ際に扇を交換する。弘徽殿女御の妹の一人だろうと推測するが(実際妹の「六の君」で、間もなく春宮に入内する予定)。その後右大臣(弘徽殿女御の父)邸の藤の宴に招かれ、再会する。

1.朧月夜の登場

初登場の際、

「照りもせず曇もはてぬ春の夜の朧月夜に似るものぞなき」

と口ずさんでいたため「朧月夜」と呼ばれるようになったのは、弘徽殿女御の妹で春宮に入内する予定の六の君(6番目の娘)。って、春宮は弘徽殿女御の息子なんだから、朧月夜にとっては姉の息子、甥ではないですか…。おそらく年齢差からして(正確には知りませんが20歳くらい離れてる?)弘徽殿女御と朧月夜は母親が違うでしょうが(母親が違う場合は近親間の結婚もタブー感薄くなると聞いたことがあります。「同胞、はらから」は「同じお腹(母)から生まれた」という意味だそうだし。逆に父親が違ったとしても母が同じならダメかも?)。

朧月夜は他の姉妹兄弟らと宮中の大宴会に出席してそのまま姉の局、弘徽殿に泊まり、眠れなかったのか眠る気がなかったのか(扇を持っていたのだから宴に出た衣装のままでしょう)廊下を歩いていたら、不審者に捕まって「キモっ!誰やお前!」(「あなむくつけ、こはたそ」)と。

「人を呼んでも無駄ですよ、私は何しても許されるんだから」と調子こいている相手がなるほど昼の宴で大活躍の源氏だということはすぐに分かったのですが、拒絶できなかったのは「気が強いと思われるのは避けたい」から、あとまだ若くて強く拒絶することを知らなかったから。

2.強き心も知らぬなるべし

ここまで源氏を読んできてこのパターン(身分を振りかざして、多かれ少なかれ女性の意に反して関係を始める)が何度目だよとイヤなため息が出るんですが。っていうか逆に女性が源氏を好きになって近づくパターンのほうが稀なくらい。夕顔と源典侍…他にいたっけ?源氏がモテるのは確かのようですが、なぜか源氏はこんな手段ばかり取る。それともこれがあるべき恋愛の始まりだったんでしょうか…それもあり得る気がします。

「女も若うたおやぎて、強き心も知らぬなるべし」とは源氏を拒絶できない朧月夜の心中を作者が推測する言葉ですが、女性が若い時(男が、社会が性的な目で見て消費しようと狙う時)ほど「No!」をはっきり言えない傾向って今でもあります。それがクソ食らえなある種の“教育”の成果なのも同じかと。

彼女は「朧月夜に似るものぞなき」と口ずさんでいましたが、実は元の歌は「朧月夜にしくものぞなき」だそうです。なぜ「しく」を「似る」に変えたかというと、「しく(如く)」は漢文的な表現だから。…例の(強いイメージの)漢字使うのは女らしくないってアレです。この辺も教育の賜物なのかしら…

あらすじでは省きましたが、この巻で紫の上はまた少し大人びて、源氏が出かけるからと引き止めたりはしなくなるのですが、これも源氏の教育の成果としています。雨夜の品定め以来、よく源氏が「女は素直で強情張らないのがよい」と言うんですが、まさにNoと言わせない教育。

それで源氏が弘徽殿に侵入してNoと言えない(英語使うわけありませんけど)“理想的”な朧月夜とまんまと関係を結んだように、誰かが二条院に侵入して“理想的”な女性に育った紫の上と結ばれたら?とは想像もしないのでしょうか…?あ。ちょっと、いやかなり先の展開を思い出しました(前回読んだのが20年近く前ですが)…こんな源氏には手痛いしっぺ返しが待っていそうです。

3.頭中将に敵意でもあるのか…?

朧月夜の正体が分からない源氏ですが、弘徽殿女御の妹の一人だろうとは確信してます。可能性が高いのは五の君か六の君。もし六の君だったら、春宮に入内の予定だからまずいことしたかなとは思うのですが…

いっぽうで美貌を噂される三の君、四の君だったら面白いのにと考える源氏。この二人はそれぞれ「北の方」として収まっている既婚者です。三の君は源氏の弟、師(そち)の宮の北の方、四の君は…頭中将の北の方です。

頭中将が四の君を嫌っているとは言え、他に男ができたらいいのにとまでは思っていないでしょう(自分はさんざん浮気しといてそれも勝手な話だけど)。源氏は何か、密かに頭中将に敵意でも持っているのか?

いや多分、そうじゃなくて…調子ぶっこいてるんだと思います。甘やかされたワガママ坊やとして。この「お調子」が最高潮に達したあたりであの展開が来るのだろうと予想しつつ。

「花宴」はここまで。次回は「葵」の巻です。