古文で読む『源氏物語』感想11.若紫 Ⅲ 〜あわや落窪

本日のあらすじ

藤壺は具合が悪くて里帰り中。源氏と関係を持ってしまったことを悩んでいる。源氏のほうは以降藤壺と逢えないことを嘆くうちに、藤壺の妊娠を知る。幼い紫の上の祖母である尼君が山寺から京の自邸に戻り、そこで病気が重くなったと聞き見舞う源氏。尼君は自分の亡き後、紫の上を頼むと伝える。とうとう尼君が亡くなり、源氏は紫の上の乳母である少納言と相談。意地悪な北の方とたくさんの子がいる父親に引き取られるよりは、と源氏が紫の上を引き取ることをためらいつつも承知する少納言。

1.やはり邪魔者はあっさり死なせる紫式部

これは桐壺帝と藤壺のパターンと同じですが、もはや手の届かない愛しい人に似た少女を、「親代わりになりますんで」と妻に迎えようとするけれど、少女の保護者に反対され…しかし保護者はあっさり死んでしまうという。

藤壺の母よりは紫の上の祖母は亡くなるのもまだ自然な年齢だったかもしれません。ただ源氏が垣間見た時、尼君は40歳くらいに見えるイケてるマダムで、源氏ははじめ紫の上の母親かと勘違いしたくらいだったんですが。

2.あわや「落窪物語」

母方の保護者がいなくなってしまったのなら父親が引き取るのが道理ですが、紫の上の乳母、少納言が心配しているのは父親(兵部卿の宮)には子どもがたくさんいて、紫の上を気にかけてくれるとも思えない上に継母となる北の方は意地悪で、(おそらくその意地悪ゆえに紫の上の母はストレス死してしまった…これも桐壺に通じます。その点、源氏と紫の上は境遇が似ている)紫の上がいじめられるのでは…ということ。

兵部卿の宮はまだ実際に登場していませんが、どうも無責任でいけすかない印象。ちなみに源氏は直接知っており、「藤壺様の兄にしては大して美男でもない」と評しています。娘の紫の上は父親より叔母にそっくり。

源氏キモい源氏キモいと言ってましたが、確かに無責任っぽい父親の家に継母の憎悪をもって迎えられるのはあまりに恐ろしい。源氏物語よりずっと前に書かれた、作者不詳の「落窪(おちくぼ)物語」はそんな話です。当時の読者たちも「あわやおちくぼ!」とハラハラしたことでしょう…

もっとも虐待されていたヒロイン落窪の君は美しい貴公子と結婚し、一夫多妻の時代にあってその夫は生涯、他に妻も愛人も持ちませんでしたが…やはりそれが理想だったんですね。継子いじめを免れる紫の上は、後に妻として辛い思いをすることになりそう。。

【ちょっと脱線】今観ている韓国ドラマ『SKY キャッスル』13話、まんま落窪っぽくてこの手の話の普遍性(?)を感じてしまいました…母子家庭に育った高校生のヘナちゃんが自分の父親を見つけ、それと知らせずその屋敷に家庭教師として住み込むんですが、(まだ彼女が夫の娘だと知らないのに)性格悪い奥様(彼女が主人公なんですけどね)は、ヘナちゃんに地下室をあてがう!…落窪の君は「おちくぼんだ部屋」をあてがわれてそう呼ばれていたのですが、ヘナの君のほうは一応日が差すとはいえ地下室(しかも元々ワイン貯蔵室っぽい)とは、、

3.で、お前らいつの間に…

原本が抜け落ちていたとかそういうことではないんでしょうか…いつの間にか藤壺と源氏は関係を持っていました。というより源氏がまた強引に迫ったような感があります、藤壺の憂鬱な様子、源氏への冷淡な態度(手紙もらっても返事しない)を思うに。

夕顔との恋の成就も省略されててあれっと思いましたが、今回さらにガッツリはしょってます。

源氏は「ただならぬ夢」を見て、その道の人に夢合わせをしてもらいます。「いずれ謹慎しなければならないことになりそう」との予言と一緒に、また「ただならぬ」予言を聞いたところで、藤壺の懐妊を知ることに。

で、そのただならぬ夢とは?予言とは?中身は教えてくれない紫式部。読者が推量できなくてはならないところです。(少なくとも予言の内容は、「あなたの子が帝になるだろう」的なことでしょう)

4.ただならぬ読解力、、

このエピソードの省略だけでなく、主語はもちろんあらゆる省略が多い源氏物語…古典作品全般がそうなのかな…注釈があるからなんとか混乱なく読めるところですが、当時の読者はそれすらないわけで、読解力も「察する力」もすごい。

あるいは読解力や教養(元ネタを知ってるかとか)のレベルに応じて、事実だけを追えたり、深く楽しめたりするものかもしれません。

省略された主語については、文脈もさることながら動詞にどの程度の敬語が使われているかで判断します。あとは文化的な背景などの知識から。その点はもちろん、当時の読者の方がずっと敏感にピンとくるのは確かですが…

さて次回で(多分)「若紫」はおしまいです。(←終わりませんでした、、、)

コメントを残す