本日のあらすじ
空蝉を諦められず小君に手伝わせて紀伊の守邸に侵入した源氏。夕方部屋を覗くと空蝉と継娘(軒端荻・のきばのおぎ)が碁を打っている。夜忍び込むと空蝉は衣をひとえ残して隠れてしまい、源氏はなりゆきで近くに寝ていた軒端荻と関係を持つ。翌朝、軒端荻には後朝の文も送らず、空蝉に歌を送る。空蝉はその手紙の端に返歌を書きつける。
1.名前もひどけりゃ扱いもひどい軒端荻
いろいろひどいですが特に。軒端の荻…という名前のとるに足らな感。この名がどこから付いたのかはまだ分かりませんが…
人物造形としては華やかな美人で、美人じゃないけどたしなみ深い空蝉とは対照的にギャルっぽい。色っぽいけど世間知らずで、なりゆきで関係を持った源氏がやることやっといて
「いや〜、僕ちょっとあんま自由がきかない身でしてね…会いたくてももう会えないかも…いやすごい残念なんだけど」
などと逃げを打っても素直に「そうなんだ」と受け止め、後朝の文も届かない非常識も「そういうもんなのかな」としょんぼり。…ひどくね?
なんですかこのとことんヤリチンに都合のいい設定は。
2.みんな中途半端な苦しみの中
隠れた空蝉は身分の転落をあらためて悲しみ、源氏を忘れられないまま複雑な思いで返歌を詠み(詠まれた歌でこの巻がブツッと終わっているため、源氏に届けられたかは不明)、軒端荻はなにがなんだか分からないまま(多分失意の感情をうまく言語化できないでいる)呆然と過ごし、小君は憧れている源氏から疎まれだし…
もちろん源氏も失意の中にありましょうが、方たがえで紀伊の守の家に押し入った上に家の中を引っ掻き回した元凶は彼。
身分の高い者が下のものを振り回しておいて、思ったより思い通りにならないことを悔しがっている状態だと思うと、空蝉はこの身分制の理不尽に一矢報いたと言えるでしょうか。
3.やはり優れた文学作品…
空蝉はかつて高い身分にいて転落したからこそ、立場の変化があったからこそ「こういうもんだよね」と受け入れることを拒めたのかも。本人は葛藤もしたし苦しんでいるけれど、結局は自分の人としての尊厳(そんな概念が当時あったかどうか)を守り通したと見えます。
一方で、「人としての尊厳を守り通す」って苦を伴うのだ、易きに流れないゆえの骨折りとか不都合があるのだ…って実感しました。この感じすごくリアル。
こんな読み方ができるのも、人間を深く描いているからこそですよね。なにそのご都合主義は!とかイライラもするけどやはり紫式部、優れた作家です。。
これで「空蝉」の巻は終わり(短かい巻だった)、次回は「夕顔」の巻に入ります。